コドク2

「ねぇ葛ちゃん、いつもリストバンドつけてるけど、暑くない?」
「ふぇ? 桂おねーさん、いきなり何ですか?」
 いきなり発せられた桂の質問に、葛は少し驚いた表情を見せる。
「なんか気になっちゃって…ひょっとして、その下に何かあるの?」
「うひゃあ、いきなり何するんですか!」
 桂にしてはすばやい動きでリストバンドを外され、驚きの声を上げる葛。 リストバンドの下の手首には、なにやら模様が描かれていた。
「この模様、何?」
「……おねーさんは、『孤戮闘(こりくとう)』って知ってますか?」
「こりくとう?」
 見た事のない模様の後に、初耳の単語を聞き、桂の疑問はさらに深まる。 少し表情を曇らせて、葛は説明を始める。

「ひとりぽっちの孤独の『孤』に、殺戮の『戮』、闘う『闘』で『孤戮闘』です。 年端も行かない子供たちを、谷底とかの逃げられない場所に集めて飢えさせます。 その後で、子供たちには人数分よりはるかに少ない食料を与えられます。 当然奪い合いです」
「え…」
 予想もしなかった悲惨な話に、桂が青ざめる。 以前、葛が自らの生い立ちを「蠱毒(こどく)」に例えたように、文字通り命懸けで闘いながら育ってきた葛に、更に辛い過去があったとは。 そして、そのような過去を思い出させてしまったという自責の念に、桂の目から涙が溢れる。
「そして食料を得られなかった子が餓死すると、更に食料が減らされ、最後の一人に……うひゃあ!?」
 最後まで話を聞くのに耐えられず、葛に抱きつく。
「ごめんね葛ちゃん、そんな辛い過去があっただなんで……」
「あの、おねーさん……ですから、話は最後まで聞いてください」
 声を上げて泣きながらすがりつく桂をあやしながら、葛は思案に暮れていた。

 屋敷で見つけた古い漫画に、孤戮闘なるものが描かれており、「生き残りには手首に証拠の入れ墨を入れる」と書いてあった。 そこで、出来心を起こして、持っていたペンでその入れ墨を真似た模様を手首に描いてみた。 が、迂闊にも油性マジックで描いてしまったため、洗っても消えなくなってしまった。 リストバンドで隠したのは、単に恥ずかしかったからに過ぎない。

(たはは……話し方を間違えてしまいましたか……でもおねーさん、気持ち良い……じゃなくて)
 葛らしからぬミスが重なってしまったが、桂に抱きしめられて、嬉しさ半分、申し訳なさ半分の気持ちで、誤解を解く方法を考える葛であった。


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