灰羽プリンセス

 もしも突然、オールドホームに12人の灰羽が生まれたらどうしますか? レキ…

 レキが壁を越えてからしばらく後、オールドホームを見回っていたラッカは、使われていない部屋で、発芽したばかりの繭を見つけた。
「うわぁ……」
 ラッカが見ている前で、隣にもうひとつの繭が芽を出す。
「あ…双子だぁ……たいへんたいへん!」
 持っていた電源コードを角に引っ掛けて転びながらも、ラッカはこの大ニュースを伝えようと、仲間たちの許へと駈けてゆく。しかし、そのときのラッカは、その後の事態がどれほど「たいへん」か、知る由もなかった。

*

「なんとか全員分の服が確保できたわね…」
「だりぃ〜〜〜〜」
「古着屋のお兄さん、あきれてたよね」
「アレだけ通えばねぇ」
 やっとひと段落ついたときには、去年からいた年長組4人は既に疲労の極に達していた。ラッカが双子を見つけてからも、オールドホーム内のあちこちで繭が見つかり、最終的には、新生子の数は12人にもなっていた。それでも、後に生まれた灰羽に対しては、先に生まれた新生子にも手伝ってもらったが、服が足りないのは如何ともし難く、連日古着屋通いを続けた上、それでも足りない分は先輩灰羽の着替えでしのいていた。
「それよりも光箔が足りなくて、あと一人多かったら、光輪を作れなかったかもしれないって」
「そうなのか…それにしても、何故今年に限ってこんなにたくさん生まれたんだろ?」
「さぁ……」
「それにしても、女の子ばっかり12人じゃ、もう完璧に女子校ね」
 ネムが呟いたとおり、新生子12人は全員女だった。

*

 最初に生まれた双子のうちカレンは、年齢の割に甘えん坊で、先輩灰羽を「お姉ちゃん」と呼んで慕っている。
「『お姉ちゃん』なんて呼ばれると、なんかこう、背中がむずむずするよな」
「私はもう先輩なんだなって、嬉しくなるけど…可愛いし」
「ラッカはああいう娘が好み?」
「え…?」ヒカリの一言で、ラッカは真っ赤になる。

 もう一方の双子であるカホは、ちょっと…いやかなりのドジである。
「なんか会うたび最低1回は転んでるよね」
「どうやったらあんなに転べるんでしょうね」
「ちょっと心配だね……でも、頑張り屋さんだし、きっと大丈夫だと……いいなぁ…」

 ボーイッシュなマモルは、体を動かすのが大好きで、しょっちゅう走っているか、自転車に乗っている。
「おちつかん奴だよなぁ」
「カナ、自分のこと言ってる?」
「なんだよそれ!」
「そういえば、さっきカホに話しかけられて、顔を赤くしていたよ」
「いい雰囲気かもね、あの二人」

 12人で最年長と思しきしっかり者のサクヤは、色気ではオールドホーム一かもしれない。また、服にもうるさい。
「あいつの服選びは難航したよなぁ…どうせ古着なんだからもっとちゃっちゃと選べよな」
「まあね…でも、あの服で『お姉様』なんて呼ばれて迫られると、ドキッとしちゃって……さっきキスしちゃった♪」
「ネム……」

 最年少のヒナコは元気な女の子。年少組でも他の灰羽とすぐに仲良くなった。
「ヒナコってさ、わたしの事『おねえたま』って言うの。可愛いよねぇ…わたしもあんな娘がほしいなぁ〜…ねぇカナ」
「何であたしに同意を求めるんだ、ヒカリ」
「だって……わたし……カナの……」それだけつぶやいて、ヒカリは恥ずかしそうに顔を赤くしてうつむいた。
「あたしの…何だよ」カナの顔も真っ赤である。

 マリエは病弱で、物静かな少女である。視力も弱いので、ヒカリの協力で眼鏡を手に入れている。
「あの娘、なんかクラモリを思い出すのよね…しかも可愛いから、我慢できないかも…」
「何を?」ラッカの素朴な疑問に、ネムは耳まで真っ赤にして固まる。

 シラユキは料理を作るのが好きなようだ。厨房でヒカリの料理を手伝ったり、お菓子を作ったりしている。
「女の子の料理姿っていいよね……つい後ろから抱きついちゃったりして」
「ヒカリは抱きついてほしいのか?」
「カナだったら…いいよ」
「あう……」カナ、自爆。

 リンリンは機械いじりが大好き。早くもカナの仕事に興味を持っている。
「やっとあたしと機械の話ができる奴が現れたよ…嬉しいねぇ」
「バイクの調子が悪かったの、さっきリンリンが直しちゃったよ。カナよりすごいかも」
「…………」

 チカゲは不思議な雰囲気のある少女である。占いや魔術を好むようだ。
「ああいうの……えっと……オカルトだっけ……なんかコワいな……」
「森に入っては怪しげな草を採ってきてるし…」
「たしかに『姉くんを……永遠に……私のモノに……』なんて呟かれるとコワいけど、話してみると、結構可愛いところもあるわよ」
「そ……そうなの?」

 ハルカは物腰はお淑やかであるが、夢見……というか妄想が暴走しがちである。更に、武道の心得もある。
「昨日町に行ったとき、ナンパしてきた男の人から、私を助けてくれたの」
「へぇ…ハルカやるじゃん」
「でも、その後手をつないで歩いてたら、『ぽぽぽっ』とか言いながらくねくねし始めたから、恥ずかしかったぁ」
「また妄想かぁ……それさえなけりゃいい娘なんだけどね……」

 ヨツバは探偵に憧れ、普段から虫眼鏡で何かを覗き込んだり、他の灰羽の事を調べたりしている。
「でも結構ドジするから、見ていて飽きないよね」
「ちょっとやかましいけどな……『チェキ』って何だよ」
「そういえば、図書館に連れて行ったら、スミカと意気投合していたわね」

 アリアはおっとりとした、お嬢様育ちを感じさせる少女である。少々わがままなところがあり、他の年少組と衝突することもあるが、子供同士のこと、仲直りも早い。
「にしてもなぁ、あのテンポの遅さはどうにかならないのか?」
「そぉ? 一緒にいると、私も和むけど」
「抱っこしてあげるとね、とっても喜ぶんだよ」

*

 急に賑やかになったオールドホームの喧騒の中で、ラッカは独り、壁を越えたレキを想っていた。顔を上げると、目の前にヨツバの顔があった。
「ラッカ姉チャマ、なにしているデスカ?」
「あ、ヨツバ……ちょっとレキ…あの絵を描いた灰羽(ひと)のことを考えてたの」
 そう言って、ゲストルームに架かっている絵を指差す。
「そうデスカ……きっとステキな姉チャマだったんデスね。姉チャマの表情で判りマス」
「うん、とっても」ヨツバの答えに、ラッカが微笑みかける。

――12人もいるのは大変だけど、私もみんなも元気だから、安心して、レキ――


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