いつもと違うバレンタイン

 休み時間、鳥居くりこがいつものように友人たちと話していると、その一人である安倍まりあに、自宅に来るよう誘われた。
「くりちゃん、今日の放課後、うちに来てほしいよー」
 くりことまりあは幼少時からの長い付き合いなので、このように放課後に遊びに行くのもいつものことである。
「うん、じゃあ、帰ったらすぐそっちに行くね」
 口調は平静であったが、くりこは内心ドキドキしていた。 というのは、この日はバレンタインデーで、まりあに渡す予定の手作りチョコレートを用意していたからである。 登校時に持ち物検査を行っていたので、学校へは持って来ずに家に置いていた。 帰宅後にまりあの家に行って渡す予定だったので、まりあの申し出は「渡りに船」であった。
「じゃあ、私も行くからな」
「……私も」
 級友の山伏実希代・王城なむの二人も参加を表明する。

 家に帰ったくりこは、手早く着替えた後、昨夜まりあのために作ったチョコを手に取った。 そして、自宅内にある、自らが巫女を勤める神社(主なご利益は縁結び)の本堂の前に行き、拍手を打つ。 そして、昨夜チョコを作っていたときの気持ちを思い返す。

 今までは友達だと思っていた。 チョコレートも「友チョコ」のつもりだった。 しかし、何時からか、「好き」の意味が変わっていた。 チョコレート売り場のどのチョコも彼女には相応しくないと思え、手作りにしてみた。 味見したときには、まりあの身体を舐める想像をして、鼻血が出た。
(これじゃ、まりあを笑えないわね……)
 教会に住み込んでいるシスター見習いにも関わらず、ちょっとしたことでエロ妄想を暴走させて鼻血を吹く友人を思い出して苦笑した。 シスターに対して、しかも同性でありながら恋愛感情を持つことに対して、嫌われてしまう可能性も考慮したが、それでも気持ちを伝えずには居られなかった。

 くりこがまりあの住む教会に着いたときには、部屋に居たのはまりあ一人であった。 何かを入れた箱を持っていたまりあは、何故か赤面しているようだった。
「そうだ、あのさ、まりあ……」
「えーと、くりちゃん……」
 二人で同時にしゃべり出し、思わず吹き出す。 笑ったおかげで少し落ち着いたようだ。 意を決して、まりあに再び話しかける。
「女同士でおかしいかもしれないけど、このチョコ、まりあに……まりあにあげようと思ったら、自分で作らずに居られなくって……」
 そういってまりあにチョコを差し出す。 まりあは一瞬驚いたような表情を見せ、くりこの意思を理解すると、赤面しながらも喜びの表情になる。
「わたしも、くりちゃんのためにチョコ作ったんだよー……くりちゃんのこと、大好きだからねー」
 まりあからのストレートな告白に、くりこは嬉しい反面、戸惑いも隠せない。
「でも、まりあはシスターに……」
「くりちゃんは特別だよー」
 そう言って、まりあはくりこに顔を近づけ、目を閉じる。 その可愛らしさに耐え切れず、くりこはまりあの顔を自らの両手で包み、まりあの唇に自分の唇を近づけ……大音響とともに部屋の扉が開いた。

 開いた扉に目を向けると、いつの間にか山伏・王城の二人が突っ伏した状態で折り重なっていた。 姿勢から察するに、まりあとくりこの様子を覗き見ていたらしい。
「あっ、あんた達いつの間にっ!!」
「いやぁ、ついさっき来たんだけど、なんかいい雰囲気で入りづらくて……」
「……ラブラブ」
 山伏も王城も全然悪びれない。 まりあに視線を戻すと、耳まで真っ赤になっている。 その日は、四人で友チョコを交換し合ったり、山伏に何か囁かれたまりあがくりこの顔を見た瞬間に鼻血を吹いたり、二人で腕を組んでいる姿を携帯デジカメで撮られたりと、嬉しくも恥ずかしい一日であった。

「まったく…二人でロマンチックに過ごそうと思ったのに」
「でも、くりちゃんに気持ちを言えて、私は嬉しいよー」
「まりあ……」
「チョコの食べ過ぎで鼻血が出たよー」
「…台無しだわ」


SS目次に戻る