ある少女の、なんでもない1日

起床

 ある朝、目が覚めた大沼菜々絵(おおぬまななえ)は、自室から居間に出るなり盛大なため息をついた。
「おはよう、菜々絵。 ちょうどごはんが出来たところよ♪」
 そこに広がっていたのは、菜々絵の母・杜江(もりえ)が朝食を食卓に盛っているという、ドコにでもある朝の光景であった。 杜江がエプロン以外に何も纏っていない、という一点を除いては。
「お母さん……またそんな格好で……」
 杜江が家の中であられもない格好をするのは、別に今日に始まったことではない。 というより、大沼家の年中行事であるので、菜々絵も今更怒る気力も湧かない。 菜々絵が寝坊したときはディープキスで起こされ、杜江が寝坊したときに起こしに行くと全裸で寝ている杜江にベッドに引き込まれる事を考えると、まだマシかも知れないと思っている。
 確かに杜江は、娘の菜々絵も自慢したくなるような美女である。 スラリと引き締まった長身(何故か娘の菜々絵は小学生並に小柄)や、豊かで張りのある胸は、とても子持ちの34歳とは思えない。しかし、母一人娘一人の大沼家では、誘惑する相手は実の娘しかいない。 さらに性質の悪いことに、誘いを受け入れたい、処女を彼女に捧げたいという願望を、菜々絵自身が心の底では自覚していた。 ただし、現在のところ、杜江の誘い方があからさま過ぎて菜々絵が引いてしまうのと、菜々絵の中で踏ん切りがつかないので、胸の触りあいに留まっている。
「まったく、見てる方が恥ずかしいんだからね」
 布1枚に隠された肢体に触れたくなる衝動をツッコミで抑えつつ、菜々絵は食卓についた。 といっても、食事の間も杜江の格好が気になって仕方がないので、意識して食べることに集中しなければならなかった。

 菜々絵が落ち着かない朝食を終え、制服に着替えて玄関に出ると、杜江は既にスーツに着替えて玄関に待機していた。
「相変わらず、着替えるの早いね」
「早く来ないと、おいて行くわよ」
 同じ学校に菜々絵は生徒として、杜江は養護教諭として通っている。 さらに、家から学校まで徒歩で10分も掛からないので、毎日のように一緒に徒歩通学である。

朝の学校

 校門で母と別れ、教室に入って授業の準備をしていると、菜々絵の口からため息が漏れてくる。 朝食中の母の姿を思い出してしまったのだ。 一人で赤面していると、後ろから声が掛けられた。 振り向くと、見慣れたショートヘアの、活発そうな美少女が居た。
「おはよっ、菜々絵。 今日も可愛いよ、高校生のコスプレ♪」
「おはよう、蘭ちゃん……わたしは正真正銘の高校1年生よっ」
「え〜、こんなに可愛いのにぃ」
 級友の下坂蘭(しもさからん)である。 高校の入学直後の自己紹介で「小柄な女の子が好み」と堂々と宣言し、クラスで最も小柄な菜々絵への好意は隠そうともしない。 前述のような挨拶は毎朝の習慣となっているが、身長を気にする菜々絵は、つい反論せずには居られない。
「で、先ほどのため息は、やっぱり大沼先生のコト?」
「うん……今朝も裸にエプロンだけで……」
 蘭は、菜々絵の母親の家での格好を知っている。 かつて蘭が菜々絵の家に遊びに行ったときに、杜江が薄手の服にノーブラで現れ、服から透けた胸に蘭がドキドキしたことがあった。 大柄な女性でも、まるっきり蘭の対象外ではないらしい。 ちなみに、そのとき菜々絵は興奮した蘭に胸を揉まれた。
「菜々絵ってば贅沢ねぇ。 あんな綺麗な女性(ひと)の裸エプロンなのに……私なら誘いに乗っちゃうかも」
「そんな事言ってると、お母さん、喜んで蘭ちゃんを押し倒すわよ」
 杜江は、その容貌と気さくさで校内の女生徒に人気がある。 杜江も、彼女を慕う少女たちを豊かな胸に快く迎える。保健室のベッドで歓迎した少女の数はもはや数え切れない。 ちなみに、男子生徒には養護教諭の義務以上の接触はしない。
「望むところよっ! でも菜々絵ともしたいし……そうだ、いっそ3人でしよっか」
 あっけらかんとした物言いに、菜々絵は更なるツッコミを諦めた。 これ以上喋ると、蘭の魅力的な提案に乗ってしまいそうであった。

授業

 今日もいつもの通り、授業が行われる。 数学の授業は、菜々絵の居るクラスの担任でもある大窪千歳(おおくぼちとせ)が担当している。 彼女はこの学校のOGで、一見「凛とした厳格な美人教師」という風情であるが、高校時代は体調と関係なく、杜江の居る保健室に通いつめていたという。 もっとも、教師となった現在でも頻繁に保健室を訪れているようであるが。 たまに、普段からは考えられない艶を帯びた表情で、顔を赤らめて菜々絵を見つめるのは気のせいだろうか。

 成績が優秀なこともあって、たまに数学の授業で貞操の危険を感じること以外には、菜々絵は教室での授業では問題なく過ごしている。 しかし、体育だけは苦手である。 小柄な体格を考慮しても筋力が少ない上、運動神経もかなり鈍いので、「運動の苦手な小学生が高校の体育の授業を受ける」状況になっている。
 授業後の着替えの途中、体格に割に大きく膨らんだ菜々絵の胸を眺め、蘭が呟いた。
「何時観ても、うらやましいなぁ、菜々絵の胸」
 菜々絵にとっては、もはや言われ飽きている言葉である。
「そうかなぁ、バランス悪くて不恰好じゃない?」
「ないない、菜々絵可愛いから。 ねぇみんな♪」
「きゃあっ、蘭ちゃん、恥ずかしいよぉ」
 菜々絵のブラジャーを外し、たわわに実った胸を見せながら、蘭が周囲のクラスメイトに同意を求める。 蘭自身も、後ろから菜々絵の胸を掴んで谷間を強調するように寄せ、その柔らかな感触を楽しむ。
「うん、とっても綺麗よ、菜々絵の胸」
「蘭ばっかり触ってないで、あたしにも触らせてよぉ」
 口々に同意する女生徒達。 複数の手が菜々絵の胸に伸びる。
「あの……も、揉んじゃ……ああっ、きもち……はあっ!」
 少女たちの手が菜々絵の胸を滑り、余人にはどうということのない刺激で菜々絵の思考は蕩け、快感に足腰が力を失う。 そんな菜々絵を、蘭がいとおしげに抱きしめる。
「いつもながら、菜々絵は敏感ね〜」
「触っただけでコレだもんね……気持ちよかった?」
「うん、とっても……」
 夢見心地で応えたところで、チャイムが鳴る。
「やば、菜々絵、早く服を着ないと」
「うん……」
 菜々絵は手足を動かして服を着ようとするが、現在の彼女のペースではまず次の授業に間に合いそうもない。
「しょうがない、みんなで手伝うよっ」
「了解!」
「蘭ちゃん、みんな、ごめんね……」
「いいって、あたしらのせいなんだから」
 4人掛りで菜々絵の汗を拭き、制服を着せ、身体を支えながら教室に向かう。
 数学だけでなく、体育の授業も菜々絵の貞操は危険に晒されていた。

 なお、着替えで菜々絵の胸を触った少女(蘭を含む)は、昼休みに「お詫び」と称して菜々絵に胸を触らせた。 制服越しとはいえ、女性の胸に囲まれた菜々絵は、その感触を存分に楽しみ、幸福感でいっぱいであった。

放課後

 そんなこんなで授業も終わり、菜々絵は母に会うために保健室に向かう。 同行する蘭に肩を抱かれて、少し嬉しそうに歩いていく。 廊下の角を曲がり、保健室の掲示が見てたところでその下の扉が開き、女生徒が出てきて、菜々絵と蘭の顔を見るなり赤面して駆けていった。
「今のってやっぱり……」
「……だよね」
 保健室に入ると、杜江がブラウスをはだけて、たわわな胸の谷間を惜しげなく披露していた。 上気した肌に気だるげな流し目が色っぽい。
「あら、いらっしゃい。 菜々絵、蘭ちゃん」
「お母さん、今出てった人と、えっちなコトしてたでしょ」
「わかる?」
 というより、杜江が女生徒や女教師を保健室のベッドに連れ込まない日のほうが珍しい。
「お母さんとあの人の匂いが部屋中にしてるよ」
「やっぱり並みの消臭じゃ、菜々絵には通じないわね」
 菜々絵は触覚だけでなく嗅覚も鋭い。 が、別に嗅覚に頼らずとも、先ほどの女生徒の仕草と杜江の態度から、二人で何をしていたかは明らかであるが。
「もぉ〜、菜々絵ったら、ビ・ン・カ・ン♪」
「蘭ちゃん、誤解を招く表現やめて」
 体育後の着替えでのことを思い出し、赤くなる菜々絵。

「それにしても、先生、そんなコトしてて、クビになったりしないんですか?」
 蘭が当然の疑問を口にする。
「大丈夫よ、校長先生も理事長も、心を込めて説得したら、理解(わか)ってくれたわ」
「やっぱり、ベッドの中で?」
 この学校は、校長も理事長も女性である。
「さすが先生、美少女から熟女まで幅が広いわ」
「浮気っぽいんじゃないの?」
 菜々絵が母の多情さを皮肉る。 が、昼休みのことを思い出すと、菜々絵自身もあまり強く言えないことは自覚している。
「博愛の精神を実践しているのよ」
 大仰な単語で正当化されなければ、素直に頷けたのだが。

 菜々絵は学校から帰ると、自分で夕食の準備をする。 原則は「先に帰ったほうが夕食の準備」なのだが、菜々絵は部活に入っていないので、大抵菜々絵が準備をする。 出来た頃に杜江が帰宅し、夕食を一緒に食べるが、杜江が朝同様に誘うような仕草をするので、やはり落ち着かない。
 食後に風呂に入り、人心地つくと、杜江にはビールを、菜々絵自身には牛乳をコップに注ぎ、居間に戻る。 お互いバスローブ姿で、取り留めのない母娘の会話をするのが楽しい。 が、菜々絵が牛乳を飲んでいると、やはり話題は菜々絵の身長になる。
「まだ身長のコト、諦めてないのね」
「ま、まだ望みはあるわっ」
 さすがに15歳で140cmでは、容易には諦めきれない。
「でも、今まで菜々絵が飲んだ牛乳、全部身長じゃなくて胸に行ってない?」
「お母さんったらぁ」
 実の母にまで胸のことを指摘され、赤面する菜々絵。 しかし、菜々絵の胸は遺伝の影響のほうが強いのではなかろうか。
「ん、暑いわ……ちょっと酔ったかしら」
 当の杜江は、アルコールのために肌を朱に染めて、深く穿たれた胸の谷間や優美な曲線を描く脚を菜々絵に見せつけ、バスローブの端からは胸の尖端や腿の間の奥も見え隠れしていた。 その露出振りに、観ている菜々絵のほうが恥ずかしくなり、さらに顔が赤くなる。
「わ、わたし、もう寝るから……お休み」
「お休み」
 杜江は眼を閉じて、菜々絵に顔を突き出し、「おやすみのキス」をせがむ。 菜々絵が顔を近づけると、杜江の腕が菜々絵の背中にまわり、お互いの唇が吸い付き、舌が絡まる。 杜江の口内そのものと、杜江が飲んでいたビールの香りに酔いしれる菜々絵。 手を掴まれ、杜江の胸に導かると、菜々絵はその感触に夢中になる。 しばらくして、菜々絵の胸にも杜江の手が触れ、たちまち菜々絵の意識が沸騰する。 程なくして二人の唇が離れ、母娘の叫び声が重なった。
乳児のように母の胸に抱かれ、菜々絵は頬に心地よい弾力を感じながら気だるい快感の余韻に浸る。 足腰に力が戻り立ち上がると、杜江に声をかけられた。
「ちょっと、やりすぎちゃったみたい。 ごめんね」
「いいの、わたしも気持ちよかったし。 今度こそお休み」
 菜々絵が二度目の「お休み」を言い、寝室へと歩き出した。

 寝室に戻り、翌日の授業の準備を終えると、今日一日のことを思い出す。
 朝、裸にエプロン一枚で配膳する杜江。 体育の後の着替えで、菜々絵の胸を触る半裸の少女たち。 昼休みでの、彼女らの胸の感触。 そして、先ほどの杜江とのキス。 記憶をたどるごとに、彼女の体の奥がうずき始める。 両手を自らの身体の上で這わせながら、バスローブの帯を解き、一糸纏わぬ姿になる。 身体の奥ででくすぶる感覚を自らの指で鎮めないと、今夜は眠れそうになかった。


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