くるみの憂鬱

「はぁ…どうして私、地味って呼ばれるのかなぁ」
 いつものように桃瀬くるみがため息をつく。 彼女の容姿は「美少女」と呼べるレベルだし、勉強は安定して上位で、運動能力抜群、人付き合いもかなり良好、友人も多い。 にも関わらず、周囲に居る人々が強烈過ぎるのか、「地味キャラ」扱いされるのが悩みの種である。
「そんなコトで悩んでも仕方ないでしょ。 悪目立ちするよりはいいじゃない」
 くるみのため息を聞いて、クラスメートの上原都が口を挟む。 二人の居る桃月学園1年C組には、「片桐姫子」という悪目立ちの見本が居た。
「でもさぁ……いくらなんでも、存在を忘れられるのはイヤよ」
「じゃあ、イメチェンしてみたら?」
 既に何度もイメチェンを図って、まったく気付かれていないくるみである。
「しても気付かれないし……」
「髪型くらいじゃ気付かれないわよ。 思い切って……服装をゴスロリにするとか、オカルトに凝ってみるとか、『ミステリアスな妹』キャラで売ってみたら? お兄さんのコト『兄くん』なんて呼んだりして」
 くるみには、双子の兄が居る。 顔を出す機会は少ないにも関わらず、くるみより存在感がある。
「……私がそんな風になったら、兄貴ぶっ倒れるって。 都が髪をツインテールにして、お色気キャラになったら考える」
「やかましいっ」
 お色気で売るには、都はスレンダー過ぎた。

「まったく……悩みすぎて、鬱屈して姫子を襲わないでよ」
 片桐姫子の名前がどこから出てくるのか、くるみには理解できない。
「何で私が姫子を襲うのよっ」
「じゃあ、6号さんを襲う?」
「襲わないって」
 何故か、会話が妙な方向にねじれ始める。 都が今度は「6号」こと鈴木さやかを持ち出す。
「6号さんってさ、可愛いと思わない?」
「そりゃ、可愛いし、いい子だし……でもさぁ……」
「でしょ? 柔らかくて、抱き心地もきっと最高でしょうね〜」
「ううっ……確かに……女の子らしいし……」
 逡巡するくるみの肩を、都は後ろから抱きとめる。
「くるみだって可愛いんだから、お似合いのカップルになると思うわ」
 都の甘いささやきに、くるみの理性が揺らぐ。
「6号さんの……肌……」
「きっと気持ちいいわよ……自分に正直に……」

「って、何やってんだお前ら」
 突然、妖しい雰囲気を打ち破る声が掛かる。 やはり同じクラスの橘玲だ。
「あれ? 玲? …私、今何を……?」
「へ? あれ? 私、何でくるみに抱きついてるの?」
 二人とも、ふと我に返る。 今までの会話を思い出し、急に赤面する。
「うわっ、私、なんてコトを……6号さんごめんなさいっ」
「私への謝罪はなし!? って都、何時まで抱きついてるのよっ」
「あ、ごめんなさいっ! なんか気持ちよかったから」
「お前ら、すっげー妖しいぞ……そんな関係だったのか?」
 あわてる二人に、玲が冷静なツッコミを入れる。

「私は気にしていませんよ」
 さらに、当の鈴木さやか本人が話に加わる。
「優しくするのも限度ってモノがあるだろ6号」
「いえ、都さんもくるみさんも好きですから、お二人に好かれるのはうれしいです」
 玲にツッコまれても、さらりと流すさやか。
「ああっ、6号さんに比べて、私たちはなんて汚れて……」
「ううっ、心が洗われるよぉ」
 さやかの発言に、都とくるみが浄化される。
「『好き』の意味が違う気がしないか? 貞操が危険だったんだぞ」
 さらなる玲のツッコミに、さやかもさすがに思案を始める。
「……くるみさん、私、どうしたらいいのかな?
「私に訊かないで」


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