晩餐

 千影が咲耶の家の居間に入ると、咲耶がつくった夕餉の匂いが鼻腔をくすぐった。
「今日は……魚のフライか」
 千影は匂いだけで今夜のメニューを当てる。

 咲耶と千影は、姉妹でありながら、事情により離れて暮らしている。会えない訳ではないので、頻繁にお互いの家を訪ねるし、そのまま泊まる事も珍しくない。

「今晩は、チカのフライよ」
「えっ……」
 千影の表情が曇る。この魚には、嫌な思い出があったからである。
 幼少の頃のある日、咲耶が遊びに来て、夕食にチカのフライが出た。当時、千影の一人称が「ちか」だったので、咲耶がその魚の名前を知ると、一口食べるごとに千影に向かって「ちかちゃん食べちゃうぞ〜」と言ってからかったのである。その後はとっくみあいの大喧嘩になり、その後千影の前にチカが出ることはなかった。

「あの時以来、私のせいで食べられなくなっちゃったみたいだから……今更だけど……ごめんね」
「ホントに……今更だね……でも……ありがとう……」
 十年以上昔のことで謝罪する咲耶に、千影が微笑みを返す。そして、フライを箸でつまむと、一口かじってみる。
「たったコレだけのことが……いままで……できなかったなんてね……美味しいよ……咲耶くん……」
 ついで苦笑する千影。
「ありがとう。良かったわ」
 千影の反応に、咲耶も笑顔を見せる。

「さてと、夕食もいただいたし……」
 夕食後、二人が咲耶の私室で落ち着いたところで、咲耶が何の脈絡もなく声をあげる。
「今度は、こちらのチカちゃんをいただこうかしら」
「……さっきの謝罪は……何だったのかな……」
「あら、昔と今じゃ、『いただく』の意味が違うわ」
 非難を帯びた千影の視線も、まったく意に介さない。あっという間に千影をベッドの上で組み敷いてしまう。
「……えっちなのは……いけないと……思わないかい?」
「思わないわ」
 最後に一言抵抗してみるものの、あっさりと粉砕され、今度は服を脱がされてゆく。
(まったく……いつもながら……強引だね……咲耶くんは……)
 そう思いつつも、千影にとって、強引な咲耶も嫌ではない。咲耶に抱かれるなら望むところでもある。今夜も睡眠不足になる予感を感じながら、千影のほうからも咲耶に腕を伸ばしてゆく。そして、今夜も二人は「姉妹」から「恋人」へと変わってゆく。


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